コロナウイルス

久しぶりに家を出てみると通りに人がいないので、「正月みたい」とふと思ったが、暖かいので違うと思い直した。家を出たが、ただ出ただけなので、行くあてもなく、なんとなくキャバクラに行った。久々に誰かと話したかったという理由にしようとしたが、別に今まで人と話したいと思ったことはないことに気づいた。最近なんだか自分が思ったことが自分のことでない気がしてならない。

キャバクラに着くと店内のすべてが緑色の照明に照らされていて密林にいるようだ。見渡しても人がいないので、叫んでみた。白いシャツに黒いベストを着て、下半身も真っ黒な男が腰を屈めて奥から出てきた。その男は「今日はこっそりやってるんで、どうぞご内密に」と言って、席に案内した。

ヒョウ柄の女が目の前に立っていた。目がやけにデカくて、目と目がくっつきそうなぐらい近寄っている。一緒に酒を飲んでいると、「元気ないね」とか「どうして来たの」とか馬鹿馬鹿しいことばかり聞いてくる。「俺は幸せそうに見えるか」と聞くと「見えない」と言うので、いい女だと思った。

ウズベキスタンに行ったことがある。シヴァという街は土でできている。周りに何も遮るものがないので、街の真ん中をいつも風が通り過ぎている。そんな街ではきっとウイルスもあっという間に遠くまで吹き飛んでしまうに違いない。青い渦状に伸びているミナレットからアザーンが大音量で流されていた記憶があるが、それも思い違いでとてつもなく静かだったような気もする。この街と同じで。